東京地方裁判所 昭和28年(ソ)27号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判斷〕抗告人は氏名詐称の店員某に抗告人振出の約束手形一通を騙取されたので、同手形の無効宣言を求めたところ、原審裁判所は、約束手形の無効宣言のためにする公示催告の申立は盜難紛失、滅失の場合に許されるもので、特定の人に騙取された場合には許されなとして、右申立を却下した。本件は右却下決定に対する不服申立である。決定は本件抗告の当否につき次のように判示し、原決定は結局正当であるとして、これに対する抗告を棄却した。
「先ず、同法第七百七十七条の規定によれば、手形その他の証書につき公示催告の申立をなし得るためには、その証券が盜難〓紛失或は滅失等所持人の意思に基ずかずにその占有を離脱し、現に所在不明であることを必要とする。従つて、苟くも該証券が任意に相手方に交付された以上、たとえ、その交付が詐欺、脅迫による場合と雖、公示催告の申立は許されないものと解すべきである。
このことは、除権判決の効果を規定した同法第七百八十五条の法意に照しても明らかである。蓋し、かように解しないときは、申立人は自らの意思に基いて他人に証券を交付し乍ら、しかも除権判決の結果、証書により義務を負担する者に対し、証券を所持せずして権利を主張し得ることとなり、両者の利益の権衡を失することとなるからである。
ところで、本件を観ると、前敍の抗告理由によれば、抗告人が片山和夫と詐称する何人かに欺罔されて、同人に対し、現金三十万円及び本件約束手形を任意に交付したことは明白である。然るに、抗告人は、同手形は氏名を詐称する何人かによつて奪取されたのであるから、何人かに盜取された場合に異らないとし、或はまた、かような場合には、紛失の一態様とも解せられる旨主張する。しかし、本件手形は、抗告人よりその任意において、占有を離脱した場合に外ならないから、騙取者が氏名不詳であるからとて、たやすくこれが盜取され、或は紛失した場合と同視すべきものと速断することはできない。右手形は、片山和夫と詐称する者に詐欺により騙取されたものと解する外はない。
されば、前段説示のとおり、本件公示催告の申立は、同法第七百七十七条に徴し許さるべきものではなく、これを攻撃する抗告人の主張は失当であつて排斥を免れない。」